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学生実験で見つけた100年前の不思議な現象(その1)

長浜バイオ大学の2年次生の学生実験では、「タンパク質混合液のなかから、リゾチームという溶菌(菌を破壊)作用のある蛋白質だけを取り出す」実験をしています。ある日、学生はリゾチームを取り出すことに成功をしますが、溶菌作用が"ない"ことに気付きました。今村比呂志 助教、神村麻友 助教、川瀬雅也 教授は、この意外な結果をきっかけとして、100年前の「中村効果」の再発見に至り、その教育効果を報告しました。

学生実験の日常での“再発見”ストーリーを連載でご紹介します(その2その3へ)。

注:生成AIに経緯を描かせてみたものです(Copilot(Microsoft)に実装されているDALLE3(OpenAI)を利用しました)。

———インタビュアー:今回の研究のいきさつを教えてください。
今村: はい、今年度から二年次生の応用実験(タンパク質系)を担当しています。学生たちが矛盾した実験データを出してきて、「これは一体何だ?」と思ったんです。
———どんな実験なんですか?
神村: タンパク質混合液の中からイオン交換クロマトグラフィーという方法で特定のタンパク質を分離、精製する実験です。
———クロマトグラフィーって何ですか?
今村: 例えば、動物たちが競争してゴールを目指すとします。コースにはさまざまな障害物があって、それぞれの動物が違うタイミングでゴールに到達するでしょう。水中ではお魚が速く、森ではおサルが速いように、どんな障害物を用意するかが大事なんです。おサルさんを一番にしたければ森のコースにすればいい。
———なるほど、タンパク質に障害物競争をさせるわけですね。
川瀬: そうです。スタートのときは混ざっていますが、ゴールではそれぞれのタンパク質を分離して取り出すんです。これを精製といいます。そして、タンパク質がちゃんとゴールできているかをタンパク質の吸光度や活性(タンパク質が持つ機能)で確認します。

———タンパク質の働きを調べるために必要なことですね。
川瀬: そうです。バイオ実験の基本です。
———それでどんなことが起きたんですか?
今村: 今回精製したタンパク質は、リゾチームといって菌を溶解する働きがあるんです。普通なら濃い方がたくさん菌を溶解させるはずなのに、今回ゴールに達したタンパク質は濃いのに全然菌を溶解させているように見えませんでした。
———濃度が低い方が良く菌を溶解させていたってことですか?
今村: そうなんです。どの班の実験データもそうだったので、学生さんのミスじゃないんですよね。それで川瀬先生が「その理由を考えてみよ」と課題を出したので、さらにびっくりしました。
———川瀬先生は答えを知っていたんでしょうか?
川瀬: いえ、仮説はありましたが、実証してはいませんでした。学生実験は答えが普通用意されています。でも、、、(その2へつづく)

連載 その2その3

本成果は、生物工学会誌 (URL:https://doi.org/10.34565/seibutsukogaku.102.2_67)に掲載されました。
論文名「タンパク質の電荷を実感する学生実験の一工夫:リゾチームのイオン交換クロマトグラフィーと中村効果」(英題: A student experiment to realize protein charge via ion-exchange chromatography of lysozyme and Nakamura effect)
今村比呂志(共同第一著者, フロンティアバイオサイエンス学科), 神村麻友(共同第一著者,フロンティアバイオサイエンス学科), 川瀬雅也(メディカルバイオサイエンス学科), 生物工学会誌 102巻(2号), 67-75.