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2026年度長浜バイオ大学入学式 学長式辞

 湖北の長浜にも、もうすぐ桜の便りが届きます。野山の芽吹きにも春を感じる季節となりました。本日、長浜市長、浅見宣義様、長浜商工会議所会頭、塚田益司様を始め、ご来賓の皆様のご臨席を賜り、ここに2026年度長浜バイオ大学入学式を執り行うことができ、大変嬉しく思います。今日、バイオサイエンス学部へ、24期生として、フロンティアバイオサイエンス学科43名、フロンティアバイオサイエンス学科臨床検査学コース23名、アニマルバイオサイエンス学科49名、バイオデータサイエンス学科24名、の139名が入学され、また、大学院バイオサイエンス研究科に、博士課程前期課程20期生として39名、博士課程後期課程20期生として2名が進学されました。皆様、ご入学・ご進学おめでとうございます。ご家族・ご関係の皆様にもお祝い申し上げます。長浜バイオ大学教職員、在校生一同、心より歓迎いたします。

 本学の大学名にもある『バイオ』は、生物に関係する言葉ですが、今、バイオと言えば生物学Biologyではなく、Bioscience、あるいは特にBiotechnologyのことを指します。Bioscienceは、動物、植物、微生物などの生命現象、構造、機能などの仕組みを分子のレベルで解明する科学で、そのBioscienceの理論・知見を基に分子レベルの生命の仕組みを応用し、価値を生み出そうとする技術がBiotechnologyです。1970年代以降、遺伝子組換え技術の誕生、PCR法の発明、ヒトゲノム計画の完了、遺伝子編集革命などにより急速に発展しました。コロナ・インフルエンザなどの感染症検査やワクチン、生物種の同定や環境調査、そして現在では犯罪捜査にも利用されています。また、バイオ燃料でジェット機も飛ばすことができます。古くからのバイオである味噌・醤油・お酒、ヨーグルトやチーズなどの醗酵技術においても、酵母や乳酸菌の遺伝子解析が進み、「偶然の醗酵」から「科学的に設計された醗酵」へと転換しつつあります。このように、バイオは、生物学、農学、理学、工学、医学、薬学だけでなく、考古学や社会学などの現代科学のあらゆる領域において、基盤技術の一つとなりました。

 先頃、日本成長戦略会議は、戦略17分野の一つにバイオを選定し、重点投資技術としてバイオものづくり、バイオ医薬品を挙げています。時代がバイオを活用して大きな価値を生み出そうとする中、皆様は、長浜バイオ大学に入学され、また、その学びを進め、さらに研究を深めようと大学院に進学されました。皆様には、長浜バイオ大学で、バイオサイエンスの知識とバイオテクノロジーの技術を身に付け、将来、社会で活躍していただくことを期待しています。

 近年、AIが加速度的に進化しています。バイオにおいても、これまで蓄積されてきたゲノム情報、画像分析、分子シミュレーションなどの膨大なデータをAIで解析して生命現象の理解を深めるだけでなく、創薬・医療・農業・環境などの応用分野において、新薬候補を探索する、画像でがんを診断する、農作物を品種改良する、環境汚染の拡散を予測する、などAIの活用が必要不可欠となってきました。AIは、圧倒的データ処理能力から、探索・最適化を高速化・効率化し、開発期間の短縮、開発コストの圧縮、成功確率の向上、などが期待され、これからますます利活用が進むことは間違いありません。このAI時代、皆様は、Bioscienceの知識とBiotechnologyの実験技術に加えて、AIを使いこなす能力が求められます。バイオ分野でのAIの活用には大きな可能性がある一方で、生物は同じ遺伝子でも状況で機能が変わる、環境依存性が非常に高いなど「例外だらけ」で、一般化が非常に難しい、複雑な生物に対してAIによるモデルが単純すぎて計算結果を実験で再現できない、生物ゆえに実験結果の再現性にばらつきがあり、AIが本当に学習できる高品質データが不足している、など、分野特有の課題も存在しています。そのため、AIが間違うことも少なくありません。AIは、膨大な組み合わせ探索、データのパターン抽出や見える化、仮説候補のランキングなどは得意ですが、そもそもAIが学習しているのはデータの意味、因果関係、背景知識ではなく、パターン、頻度、近道(ショートカット)であり、結果について生物学的な説明はできません。実験により「現実がどうなっているか」を検証し、時にはAIの間違いを発見し、生命としてどういう意義があるか、生態系で何を示すか、などの意味づけは人の仕事です。AIは単独で価値を生むのではなく、実験と専門知識と組み合わさることで最大の力を発揮していきます。これからAIについて学び、利用する皆様は、「なぜこのデータがこうなっているか」を説明できる確かなBioscienceの知識とBiotechnologyの実験技術を大切にし、AIを、発見の近道、思考の加速器、実験の質を上げる道具として使いこなすバイオ技術者・研究者を目指していただきたいと思います。

 昨年2025年のノーベル生理学・医学賞は、制御性T細胞を発見されたこの長浜ご出身の坂口志文先生が受賞されました。坂口先生のお好きな言葉が「運・鈍・根」だそうです。この言葉については、1年前、2024年度の卒業式で、人間国宝の染色家の志村ふくみさんが大切にしておられる言葉として、皆様の先輩にお話しました。志村さんも同じく滋賀ご出身で、これから長浜の地で学ぶ皆様に、滋賀ゆかりの人間国宝とノーベル賞受賞のお二人のお好きな言葉をご紹介したいと思います。「運・鈍・根」は、「幸運」、「鈍重」、「根気」を意味する言葉ですが、この「幸運」は、単にラッキーということではなく、何事も焦らず、腰を据えてゆっくりと確実に、コツコツ根気よく続けていくことが大切で、その結果として幸運が巡ってくる、ということではないでしょうか。坂口先生は、「一つ一つ」という言葉も大切にしておられて、何事も焦らずに、一つ一つ、一歩ずつ一歩ずつ積み上げていくことが大事、とされてきたそうです。皆様は、今、新しい生活に期待し、夢を持っておられることと思います。先を急がず、目の前のことに全力を尽くし、小さな目標を少しずつ達成して行って下さい。一つ一つ夢に向かって頑張る皆様を、長浜バイオ大学は全力で応援します。そのことをお約束して、私の式辞と致します。

 本日は、ご入学、ご進学、おめでとうございます。

 2026年4月1日 長浜バイオ大学 学長 伊藤 正惠