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SPring8を訪問しました

 2010年9月14日(火)、「タンパク質科学」(西教授)受講者の22名と西先生、中村先生が兵庫県にある大型放射光施設SPring8を訪問し、施設見学を行いました。

SPring8 図1 全体写真.JPG

 
SPring8 見学記

分子生命科学コース 教授  西 義介
 タンパク質科学の講義(第9回)で、構造生物学のメッカとでも言えるSPring8を簡単に紹介しております。第一〜二期生の希望者を引率、見学したのは随分前のことのように思います。以後しばらく途絶えておりましたが、今年9月14日に2回生23名を引率して、SPring8を見学してきました。今回も前回と同様に、分子コースの中村先生にも同道していただき、チャーターバスを利用しました。SPring8の構造生物学研究室の室長である宮野雅司先生(と研究員の吾郷日出夫君)は私がJT生命研に所属していた時期の後輩にあたり、懇意にさせていただいている関係で、いつも無理なお願いを快く引き受けてくれます。今回も案内役を引き受けてくれました。夏の電力事情が悪化する8〜9月は稼働していないので、貯蔵リングに接して設置されているビームラインの測定室内部まで入れてもらえます。今回もビームラインのブースの中まで見学させてもらいました。タンパク質の結晶解析の観察現場を目の当たりにすることができました。  
 今年の目玉は何と言っても700メートルあるXEFL(X線自由電子レーザー)施設の内部見学でした。現在、建設の終盤にさしかかっており、今年の10月から試運転が始まると聞きました。SPring8の放射光より数10億倍強いX線をパルスで発信する装置で、一直線に電子を走らせ、加速させることによって、このX線を得るそうです。フェムト秒の時間分解能があるために、超高速の分子の動きの観察、微細物質(細胞など)のイメージング、膜タンパク質の構造解析、ナノテクノロジー、X線天文学への応用などが考えられているそうです。400メートルのビームを高周波で加速する加速管の部屋、300メートルのX線の波長を揃えるアンジュレーターの部屋、分厚いコンクリートで隔てられた5本のビームラインに分ける部屋、さらにその奥の測定室など全てを見させてもらいました。装置の内部は稼働し始めてからでは見ることが出来ないものばかりで、今回は時期が丁度良かったようです。類似の装置は世界で三台しかなく、しかも、日本独自の技術を使っている(熱電子の利用、アンジュレーターに必要なガスが出ない特殊な永久磁石の使用。これにより、真空の筒の内部に設置でき、磁石をよりビームラインに近づける事が出来るようになったために、アンジュレーターの長さを短くできたなど)こと。
 特に、興味深かったことは、加速管のところでした。加速管は銅でできた幅7〜8センチのバームクーヘンを沢山重ね合わせたような構造で出来ており、それぞれのバームクーヘンには製作者が分かる番号が刻印されています。バームクーヘン電子ビームを直行させるために、高精度に作らなければなりません。数ミクロンの精度で電子ビームを長距離直行させることは技術的に極めて難しいのですが、このために外から木槌で一つ一つのバームクーヘンを叩いて微調整するそうです。日本の最先端インフラが職人技で維持されている現場をここでも、目の当たりにしました。学生達もさぞ感心したことでしょう。現場の技術者の方達が装置の最終点検をやっている横を通り過ぎながら、やはり、本物を見せることは大事だなあと再認識した次第。本物に接することで若い感性を磨いて欲しいなあとの思いを胸に、光都を後にしました。夏の名残りの風がわたり、虹が輝く天空に巨大な銀屋根は聳え、やがて暮れなずむ陽を受けて金色に染まっていました。最後になりますが、XEFLの説明をしていただいた馬塚さん、一緒に所内を案内してくれた吾郷君、宮野先生本当に有り難うございました。

分子生命科学コース 講師  中村 卓
 2010年9月14日火曜日に西先生の「タンパク質科学」の受講者の有志22名と西先生、私の計24名で兵庫県佐用郡佐用町にある大型放射光施設SPring-8の施設見学を行った。過去に2期生の有志とSPring-8の施設見学を行ったが(たしか私がバイオ大学に赴任した2005年のことだと思う)、その際には西先生のお知り合いの宮野雅司先生に施設の概要説明を受けた後、蓄積リング棟(放射光を照射する施設)、構造生物学研究棟(だったと思う)を見学した。参加した学生とともに広大な施設やロボットを使ったタンパク質の結晶化装置に感動した記憶がある。その後、研究対象のタンパク質の結晶構造解析を行うために3年ほど前から年に数回程度同施設を利用しているため、SPring-8見学に対する新鮮味はないものとはじめは思っていた。

SPring8 電子銃_Cバンド加速管.JPG

 バスは9時に大学を出発し、途中トイレ休憩、食事込みの休憩を含めても予定より少し早い13時過ぎにSPring-8に到着した。はじめは、一般の参加者が施設見学を行う際に説明を受ける放射光普及棟での講義からスタートした。今回も宮野先生が我々の面倒を見てくださった。SPring-8で発生する放射光がどのような研究に利用されるかについてビデオと宮野先生の講義がまず行われ、次に国家基幹技術の一つであるX線自由電子レーザー(XFEL)とその発生施設の解説が施設の担当員である馬塚さんから行われた。XFELの話は今回初めて聞く内容でありとても興味深いものであった。講義後にも何人かの学生が質問していたことから彼らにとっても興味深い内容だったようだ。
 次に実際の施設見学を行った。今回は、中央制御室、蓄積リング棟、XFEL施設を見学した。私はX線照射実験のため、蓄積リング棟には何度か入ったことがあるものの、その施設を管理している中央制御室を見たことはなかった。今回は、メンテナンスでビームラインが停止しているため制御室の方々にはリラックスしたムードが漂っていたが、NASAの管制塔を思わせるようなガラス張りの部屋と数多くの液晶ディスプレイに最先端の技術を肌で感じた気分になり思わず感動した。ただし、その時にはまだ引率の教員として声に出すことに恥じらいを感じていたのだが...そして何と言っても来年度から運転が開始されるXFEL施設である。おそらく運転が開始してから一般人が中に入ることはおそらく不可能であろうこの施設を今回特別に見学できるというのだ。施設内では作業員の人が細心の注意を払いながら設備の構築、点検等を行っている。世界最高水準の技術が結集された設備が作られている様子を目の当たりにして、私は思わず学生と一緒に携帯のカメラのシャッターを押し続けてしまった...700mほどの長さのある施設を靴にカバーをつけながら歩き、途中でCバンド加速管(高純度の銅でできた電子を加速する管)、永久磁石の並んだアンジュレーター(電子を蛇行させて光の波長をそろえるところ)の説明を聞きながら、設備へのこだわりや意気込みというものを強く感じた。講義で写真を見るよりも実物を見る方がよっぽど迫力があった。まさに「百聞は一見にしかず」である。
 最後に再び放射光普及棟に戻り、学生からの質問に宮野先生が答えられるという形でやり取りが行われた。宮野先生は(講義の時からそうであったが)ユーモアを時折混ぜながら質問に答えられ、学生にとってもとても気さくな方に見えたのではないだろうか。西先生とのやりとりも時に漫才のようで絶妙であった。
施設滞在の時間もあっという間に終わり、少し夕日が差し始めたSPring-8に別れを告げ、我々は帰途についた。帰りのバスでは、西先生と近くに座っていた学生と一緒に見学した施設の話、研究者に求められること、これからどのように学生生活を過ごしていけばよいかなどを熱く語り合った。私と西先生は最前列に座っていたので残念ながら後ろに座っている学生とはほとんど会話をする機会はなく、彼らが何を思い、何を感じたのかは定かではない。休憩時間にもう少しこちらから話しかけて話を聞けばよかったかもしれないと反省している。でも、きっと最先端の技術を生み出す設備を見学することで、きっと彼らの中にも大きな感動が生まれていると思う。今回、引率という立場で参加した見学会であったが、実際にはSPring-8について知らないことばかりで不覚ながら学生以上に感動と研究に対するやる気を与えてもらったのかもしれない。
宮野先生の講義資料は学内ホームページにて公開しています。

SPring8 施設内.JPG

2回生  村岡 伸哉

SPring8 図2 タンパク質構造解析写真.JPG

 今回、自分達は大型放射光施設であるSPring8の見学をさせていただきました。 放射光とは、光速に近い高エネルギーの電子または陽電子が軌道を曲げられたときに放出される電磁波のことを言います。SPring8は、この"放射光"を使って原子レベルの繊細な構造や働きを観察する施設です。
 西先生の知り合いである宮野雅司さんという方にこの施設の紹介をしていただきました。写真(図1)のドーム状の施設、ここがSPring8であり円周は1436m、そのため施設内では自転車が移動手段として使われていて、驚きでした。写真の左側に見える細長い施設、これは今年度完成予定のX線自由電子レーザー(XFEL)施設です。この施設も結構長くて全長約700m、徒歩で移動しながら施設内を見学しました。このXFELですが、「その明るさはSPring8の10億倍」と言われています。超高速な化学反応や細胞内のタンパク質の観察などに利用されるそうです。
 SPring8紹介の動画、宮野さん・広報担当の方の簡単な施設説明のあとに施設内の見学をさせていただきました。実際、施設を見てみると何か奮起させられるものがあり、この2つの施設のこと(研究内容はもちろんのこと)がもっと知りたいと思うようになっていました。XFELの施設は、未完成だったこともあり、本来なら見学することも不可能な場所まで見学させていただくことができました。まだ、作業も途中で作業員の方も多くいました。科学的で大きな施設でも、必ず出来るまでに人の力が要る。そして、出来た施設を利用して研究者が新たな発見をする。科学の進歩は、様々な人が背景にあってこそのものだと、改めて感じました。また、施設内の部品の一部には、いまだに人の手と点検によって作られるものがあると知りました。人の手から機械へと作業が変遷した現在でも、そのような技術は必要になってくるのだと、深く感銘を受けました。
 この施設で見聞き、触れ、感じたもの、すべてこれからの生き方に生きてくると思います。僕は好奇心や探究心、向上心からこの見学の参加に至りました。見学中でも、何でも知りたい、見たい、聞きたいという感情は絶えることはなく、理解できないことがあるのがもどかしくて、もっといろいろ知ってから見たら、もっと面白いものだったのではないかと後になって感じます。
 最後に、引率してくださった西先生、中村先生、参加してくれた2回生の皆さん、足りない分のバス代を出してくださった大学側、宮野さん、広報担当の方々、ありがとうございました。
参考文献:SPring8 HP(http://www.spring8.or.jp/ja/)

2回生  ふるかわ 
 世界最先端の研究ができる施設だけあり、大きさと充実した設備に圧倒されました。また、講義ではSPring8の電子加速や放射光発生のメカニズムをわかりやすく説明していただき、X線結晶解析が実際にどのようにして行われているのか知ることができました。
 SPring8には素晴らしい装置がたくさんありましたが、私にとって一番印象に残っているのは、講義をしてくださった宮野先生が、「"最先端"とはすべての作業を機械で行うことではなく、それを支える人間の技術の賜です」とおっしゃっていたことです。機械の発達で様々な装置の自動化に注目が集まりやすいと思いますが、それを支えているのはレベルの高い日本の人材なんだなと改めて感じました。

2回生  久野 裕海
 今回SPring-8を見学させていただいて、研究施設の規模の大きさに驚きました。実際に施設内の様子も見せてもらい、1周が約1.5kmもある蓄積リングでは放射光を使った実験が大勢で1度に出来るそうです。バイオ生として分子や細胞について学んでいるので、Spring-8での実験や研究はとても身近なものに感じました。また、建設中のXFEL施設内も見学させてもらえ、とても貴重な体験が出来てよかったです。

2010年9月14日SPring8見学.JPG