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中村肇伸講師らの共同研究が『ネイチャー』に掲載されました

たった1つの受精卵から細胞が分化する神秘の解明に大きな貢献

 哺乳類の受精直後に生じるDNAのメチル化リプログラミングの制御機構を分子レベルで明らかにした研究論文が英科学誌『Nature』(6/3付)に掲載されました。この論文は、大阪大学、京都大学、理化学研究所との共同研究によるもので、中村講師が中心的な役割を果たしました。
 DNAのメチル化は、ヒストンの化学修飾と共に「エピジェネティック制御」の中心的な役割を果たすことが知られています。本論文では、PGC7というタンパク質が、DNAのメチル化とヒストン修飾をつなぐ分子として機能し、受精卵において父親由来ゲノムと母親由来ゲノムを区別することを明らかにしています。本研究は、受精卵が万能細胞へと変化するメカニズムの一端を解明したものであり、この知見をもとに新たな正常発生におけるエピジェネティックリプログラミング機構の全容の解明や新たなリプログラミング法の開発などが期待されます。

PGC7 binds histone H3K9me2 to protect against conversion of 5mC to 5hmC in early embryos

Published online 03 June 2012

【教員の紹介】 中村 肇伸

2012年6月4日(月) 中日新聞より
受精卵分化のリプログラミング 卵子の遺伝子 重要役割 長浜バイオ大など
 受精卵が体内の各器官の細胞に分化する際、精子と卵子の遺伝子の役割が消される現象「リプログラミング」について、卵子に含まれる遺伝子「PGC7」が重要な役割を果たしていることが、長浜バイオ大の中村肇伸講師(37)=生殖細胞学=と大阪大大学院仲野徹教授(55)=幹細胞学=の研究で分かった。英科学誌「ネイチャー」電子版に3日、発表した。
 リプログラミングがうまく機能しないと、受精後の細胞分化が正常に起こらないとされ、今回の研究が不妊の原因解明につながる可能性がある。
 同じ遺伝情報を持つ細胞がさまざまな細胞に分化する際、遺伝子自体は変化せず、別の分子が付着することで構造や活性が変化する。その際、精子と卵子がそれぞれの遺伝子の役割を消すリプログラミングが必要なことが分かっているが、分子レベルのメカニズムは解明されてなかった。
 共同チームは、卵子に含まれる遺伝子「PGC7」を欠損させたマウスで実験。その結果、卵子の遺伝子に別の分子が付着し、卵子のDNA構造が変わり、リプログラミングがうまくいかず受精卵が死滅した。
 受精直後の遺伝子とタンパク質の結合状態を調べるとPGC7がタンパク質「ヒストン」と結合することで、リプログラミングに必要のない分子が遺伝子に付着するのを防ぐ役割をしていることを突き止めた。
 再生医療の実現に期待がかかる人工多機能性幹細胞(iPS細胞)を作成する際も、細胞を「初期化」し、リプログラミングの過程が必要なため、効率の良い培養に応用できる可能性があるという。
 中村講師は、「受精卵から細胞が分化する神秘の解明に貢献できた」と話している。

不妊解明に役立つ
人工的な生殖細胞作製に詳しい京都大の斉藤通紀教授(発生生物学)の話
 リプログラミングされすぎても細胞の分化はうまくいかない。PGC7がリプログラミングに絶妙なバランス調整機能を果たしていることが分かった。PGC7がないことが不妊の原因の一つとも考えられ、不妊の原因解明に役立つ。

2012年6月4日(月) 東京新聞より
卵子の遺伝子 重要な役目 受精卵の正常細胞分化
「リプログラミング」長浜バイオ大など解明 不妊原因解明に期待
 受精卵が体内の各器官の細胞に分化する際、精子と卵子の遺伝子の役割が消される現象「リプログラミング」について、卵子に含まれる遺伝子「PGC7」が重要な役割を果たしていることが、長浜バイオ大の中村肇伸講師(37)=生殖細胞学=と大阪大大学院仲野徹教授(55)=幹細胞学=の研究で分かった。英科学誌「ネイチャー」電子版に発表した。

  リプログラミングがうまく機能しないと、受精後の細胞分化が正常に起こらないとされ、今回の研究が不妊の原因解明につながる可能性がある。
 同
じ遺伝情報を持つ細胞がさまざまな細胞に分化する際、遺伝子自体は変化せず、別の分子が付着することで構造や活性が変化する。その際、精子と卵子がそれぞ
れの遺伝子の役割を消すリプログラミングが必要なことが分かっているが、分子レベルのメカニズムは解明されてなかった。
 共同チームは、卵子に含まれる遺伝子「PGC7」を欠損させたマウスで実験。その結果、卵子の遺伝子に別の分子が付着し、卵子のDNA構造が変わり、リプログラミングがうまくいかず受精卵が死滅した。
 受精直後の遺伝子とタンパク質の結合状態を調べるとPGC7がタンパク質「ヒストン」と結合することで、リプログラミングに必要のない分子が遺伝子に付着するのを防ぐ役割をしていることを突き止めた。
 再生医療の実現に期待がかかる人工多機能性幹細胞(iPS細胞)を作成する際も、細胞を「初期化」し、リプログラミングの過程が必要なため、効率の良い培養に応用できる可能性があるという。
 中村講師は、「受精卵から細胞が分化する神秘の解明に貢献できた」と話している。

絶妙なバランス調整
人工的な生殖細胞作製に詳しい京都大の斉藤通紀教授(発生生物学)の話
 リプログラミングされすぎても細胞の分化はうまくいかない。PGC7がリプログラミングに絶妙なバランス調整機能を果たしていることが分かった。PGC7がないことが不妊の原因の一つとも考えられ、不妊の原因解明に役立つ。

平成24年(2012年)6月6日 近江毎夕新聞より
遺伝子発現の仕組み一部解明 長浜バイオ大の中村講師らが成果
 生体内で、次世代を担う生殖細胞が形成される際、様々な遺伝情報が消去・再構築される過程「リプログラミング」の仕組みを分子レベルで研究する、長浜バイオ大学の中村肇伸(としのぶ)・アニマルバイオサイエンス学科講師(37)と、大阪大学大学院の仲野徹・生命機能研究科教授(55)の共同研究チームがこのほど、卵細胞にある遺伝子「PGC7」が受精卵のリプログラミングに果たす機能の一部を解明し、このほど英国の科学誌「ネーチャー」電子版に発表した。
 これまでの研究でPGC7」が、リプログラミングに大きく関わっていることがわかっていたが、研究チームは、同遺伝子がDNA(デオキシリボ核酸)と、DNAを核内に収納する役割のたんぱく質「ヒストン」の双方に作用し、遺伝子の機能を変化させる「ゲノム(生物の全遺伝情報)修飾」を取り持っていること、さらに同遺伝子が特定のヒストンの修飾に関与して、一部のたんぱく質機能を抑え、父親由来の遺伝情報と母親由来の遺伝情報をそれぞれ異なる形に修飾していることを突き止めた。PGC7の遺伝子を欠損させたマウスの受精卵を追跡する実験でわかった。
 中村講師は、基礎研究の段階としながらも研究成果が、哺乳生物が最初に発生した際の分子レベルのメカニズム、遺伝子がリプログラミングされる過程解明に大きく貢献するとしている。またリプログラミングが失敗すると受精卵の細胞分裂が正常に進まないとされることから、不妊の原因解明にもつながるとしている。

分子レベルで解明
 細胞学、分子生物学などの分野では、ヒトゲノムの解読完了に伴い近年、DNAへの後天的な作用で形質変化(遺伝子変異)が生まれるメカニズムを研究する学問分野「エピジェネティクス」が脚光を集めている。これまではDNAの塩基配列の変化が遺伝子変異の仕組みとされていたが、真核細胞内にあるDNAとたんぱく質の複合体「クロマチン」が後天的な遺伝子の発現、修復など、DNAが関わるあらゆる機能の制御に大きな役割を果たしていると考えられる。
 実際はヒストンとよばれるたんぱく質の周りにDNAの一部が酵素の触媒作用でメチル基と置換、統合する「メチル化」と、ヒストンの様々な「修飾」が必要という。
 中村講師らの研究は父親由来のDNAが、特定酵素の触媒作用でヒドロキシメチルに変換されるのに対し、母親由来のメチル化が変換を受けないメカニズムを解き明かしたもの。

2012年6月14日(木) 京都新聞より
タンパク質が母遺伝子保護 受精卵の「初期化」時 長浜バイオ大など解明 iPS培養応用期待
 長浜バイオ大バイオサイエンス学部の中村肇伸講師と大阪大大学院生命機能研究科の仲野徹教授らの共同研究チームが、全ての細胞に分化できる受精卵におけるリプログラミング(初期化)で、卵子に含まれるタンパク質「PGC7」が母親由来の遺伝子を変化させないようにする役割を果たしていることを突き止めた。初期化の制御メカニズムの一部を解明する成果といい、iPS(人工多能性幹)細胞の培養効率の改善などにつながると期待できる。英科学誌「ネイチャー」電子版でこのほど発表した。
 卵子と精子が結合してできる受精卵は、体を作る全ての細胞に分化できる初期化状態になる。受精卵では父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子の2個が別々に存在している。ヒストンというタンパク質に遺伝子が巻き付いた状態で、複合隊のクロマチンと呼ばれる。
 初期化では、父親由来のクロマチンの遺伝子だけが酵素によって状態が変化し、母親由来の遺伝子は変化しないことが知られている。母親由来の遺伝子が何らかの理由で変化した場合、受精卵が死んでしまう。効率よく受精卵を作るため、変化しないメカニズムの解明が課題だった。
 共同研究チームは、受精直後、初期化が起きた時、卵子のタンパク質PGC7と、母親由来のクロマチンが、分子がくっつく化学修飾に伴って結合し、遺伝子に変化をもたらす酵素をクロマチンに接合させなくしていることを、分子レベルで解明した。
 中村講師は「細胞を初期化する方法の開発や、不妊治療など生殖補助医療の応用につながる可能性がある」と話している。