×

海綿由来物質が抗がん剤に 太田伸二教授の研究に注目

海綿Geodia exigua.jpg

 海で生活しているスポンジのような生き物「海綿」の研究が進んでいます。
 自然界に生息する動植物から"薬のもと"を探していた太田伸二教授(バイオサイエンス学科・環境生命科学コース)の研究グループは、奄美大島近くで採取された海綿「ゲオジア・イグジグア」が持つ「イグジグオリド」という物質の構造を特定しました。その後の研究により、この物質にはヒトの肺がん細胞の増殖を抑える機能があることが分かり、新たな抗がん剤の開発につながるものとして注目を集めています。
(写真は海綿の一種ゲオジア・イグジグア)
 海綿の体の中には大量の微生物が生息しており、それらの生き残り競争の中で、別の微生物が増えて優勢になるのを抑えてしまうような"毒"を作り、それが海綿を外敵から守っている例がみつかっています。そうした物質の一部が、ヒトにとっての薬として働くものと考えられます。
 この物質を医薬品に育てるには、医学の専門家とも協力しながらさらに研究が必要ですが、こうした研究の取り組みについて、共同通信社が太田伸二先生らに取材し、その内容が全国の新聞社に配信されました。

2011年4月5日  中部経済新聞より
海綿から新抗がん剤
 海で生活するスポンジのような生き物「海綿」の研究が進んでいる。海綿由来の物質が最近、新たな抗がん剤として登場。別に有望な物質も見つかっている。こうした物質の構造特定や人工合成法の開発には、日本人科学者の貢献も大きい。
【30年前から】
 「海綿の体内にはさまざまな微生物がすんでいる。ある微生物が生き残り競争の中で、別の微生物が増えないようにする"毒"を作り、それが海綿の身を外敵から守るのにも役立っている例がある」と長浜バイオ大(滋賀県)の太田伸二教授(環境分子生態学)は解説する。そうした物質の一部は、人間の薬としても使えるというわけだ。
 海洋生物から薬になりそうな物質を探す研究は、スキューバダイビングの普及や設備面での改良を背景に、30年ほど前から活発になった。欧米でも盛んだが、海に囲まれた日本の研究者の活躍が目立つ。
【薬まで25年】
 この分野の研究が最近、乳がんの治療薬として結実した。エーザイの「ハラベン」で、米国では昨年承認。日本でも近く発売される見込みだ。
 元をたどれば、四半世紀前に三浦海岸(神奈川県)で採取されたクロイソカイメンに行き着く。
 上村大輔慶応大教授は1985年、平田義正名古屋大名誉教授(故人)らとともに、この海綿から抽出した「ハリコンドリンB」という物質の複雑な構造を特定した。92年には米ハーバード大の岸義人名誉教授が人工的に合成することに成功して、欧米の競争相手たちをあっと言わせた。
 エーザイはこの成果を元に薬の開発に着手。62工程という難度の高い合成ルートを確立し、コスト面などから敬遠されがちだった複雑な化合物も産業化できることを示した。
【新候補も】
 新たな薬の候補も見つかっている。日本近海の約500種類の海綿を調べ"薬のもと"を探していた太田教授らは2006年、奄美大島近くで採取された「ゲオジア・イグジグア」が持つ「イグジグオリド」という物質の構造を特定した。
 東北大の不破春彦准教授(天然物合成化学)と佐々木誠教授(同)は、この構造を見て「ものになる」と直感。1年がかりで人工合成する手法を開発し、今年1月、世界に先駆け欧州の科学誌に発表した。癌研究会(東京)との共同開発で、この物質に人間の肺がん細胞の増殖を抑える作用があることも確かめた。
 太田教授によると、この海綿は非常にまれにしか見つからず、採れるイグジグオリドはごく微量。抗がん作用についてさらに詳しい研究を進め、医薬品にまで育て上げるには、人工合成法の確立は必須だった。
 不破准教授は「今後は、この物質がこのまま薬になるのか、改良が必要なのか、なぜがんに効くのかなどを詰める必要がある。臨床医学の専門家らと協力しながら、研究を進めていきたい」と語っている。

2011年4月6日  埼玉新聞より
海綿から新たな抗がん剤 <科学スコープ>
 海で生活するスポンジのような生き物「海綿」の研究が進んでいる。海綿由来の物質が最近、新たな抗がん剤として登場。別に有望な物質も見つかっている。こうした物質の構造特定や人工合成法の開発には、日本人科学者の貢献も大きい。
【30年前から】
 「海綿の体内にはさまざまな微生物がすんでいる。ある微生物が生き残り競争の中で、別の微生物が増えないようにする"毒"を作り、それが海綿の身を外敵から守るのにも役立っている例がある」と長浜バイオ大(滋賀県)の太田伸二教授(環境分子生態学)は解説する。そうした物質の一部は、人間の薬としても使えるというわけだ。
 海洋生物から薬になりそうな物質を探す研究は、スキューバダイビングの普及や設備面での改良を背景に、30年ほど前から活発になった。欧米でも盛んだが、海に囲まれた日本の研究者の活躍が目立つ。
【薬まで四半世紀】
 この分野の研究が最近、乳がんの治療薬として結実した。エーザイの「ハラベン」で、米国では昨年承認。日本でも近く発売される見込みだ。
 元をたどれば、四半世紀前に三浦海岸(神奈川県)で採取されたクロイソカイメンに行き着く。
 上村大輔神奈川大教授は1985年、平田義正名古屋大名誉教授(故人)らとともに、この海綿から抽出した「ハリコンドリンB」という物質の複雑な構造を特定した。92年には米ハーバード大の岸義人名誉教授が人工的に合成することに成功して、欧米の競争相手たちをあっと言わせた。
 エーザイはこの成果を元に薬の開発に着手。62工程という難度の高い合成ルートを確立し、コスト面などから敬遠されがちだった複雑な化合物も産業化できることを示した。
【新たな候補も】
 新たな薬の候補も見つかっている。日本近海の約500種類の海綿を調べ"薬のもと"を探していた太田教授らは2006年、奄美大島近くで採取された「ゲオジア・イグジグア」が持つ「イグジグオリド」という物質の構造を特定した。
 東北大の不破春彦准教授(天然物合成化学)と佐々木誠教授(同)は、この構造を見て「ものになる」と直感。1年がかりで人工合成する手法を開発し、今年1月、世界に先駆け欧州の科学誌に発表した。癌研究会(東京)との共同研究でこの物質に人間の肺がん細胞の増殖を抑える作用があることも確かめた。
 太田教授によると、この海綿は非常にまれにしか見つからず、採れるイグジグオリドはごく微量。抗がん作用についてさらに詳しい研究を進め、医薬品にまで育て上げるには、人工合成法の確立は必須だった。
 不破准教授は「今後は、この物質がこのまま薬になるのか、改良が必要なのか、なぜがんに効くのかなどを詰める必要がある。臨床医学の専門家らと協力しながら、研究をすすめていきたい」と語っている。

2011年5月11日  高知新聞より
海綿から抗がん剤
 海で生活するスポンジのような生き物「海綿」の研究が進んでいる。海綿由来の物質が最近、新たな抗がん剤として登場。別に有望な物質も見つかっている。こうした物質の構造特定や人工合成法の開発には、日本人科学者の貢献も大きい。
【30年前から】
 「海綿の体内にはさまざまな微生物がすんでいる。ある微生物が生き残り競争の中で、別の微生物が増えないようにする"毒"を作り、海綿の身を外敵から守るのにも役立っている例がある」と長浜バイオ大(滋賀県)の太田伸二教授(環境分子生態学)は解説する。そうした物質の一部は人間の薬としても使えるというわけだ。海洋生物から薬になりそうな物質を探す研究は、スキューバダイビングの普及や設備面での改良を背景に、30年ほど前から活発になった。欧米でも盛んだが、海に囲まれた日本の研究者の活躍が目立つ。
 この分野の研究が最近、乳がんの治療薬として結実した。エーザイの「ハラベン」で、米国では昨年承認。日本でも近く発売される見込みだ。
【薬まで四半世紀】
 元をたどれば、四半世紀前に三浦海岸(神奈川県)で採取されたクロイソカイメンに行き着く。上村大輔神奈川大教授は1985年、平田義正名古屋大名誉教授(故人)らとともに、この海綿から抽出した「ハリコンドリンB」という物質の複雑な構造を特定した。92年には米ハーバード大の岸義人名誉教授が人工的に合成することに成功して、欧米の競争相手たちをあっと言わせた。エーザイはこの成果を元に薬の開発に着手。62工程という難度の高い合成ルートを確立し、コスト面などから敬遠されがちだった複雑な化合物も産業化できることを示した。
【新たな候補も】
 新たな薬の候補も見つかっている。日本近海の約500種類の海綿を調べ"薬のもと"を探していた太田教授らは2006年、奄美大島近くで採取された「ゲオジア・イグジグア」が持つ「イグジグオリド」という物質の構造を特定した。
 東北大の不破春彦准教授(天然物合成化学)と佐々木誠教授(同)は、この構造を見て「ものになる」と直感。1年がかりで人工合成する手法を開発し、今年1月、世界に先駆け欧州の科学誌に発表した。癌研究会(東京)との共同研究で、この物質に人間の肺がん細胞の増殖を抑える作用があることも確かめた。
 太田教授によると、この海綿は非常にまれにしか見つからず、採れるイグジグオリドはごく微量。抗がん作用についてさらに詳しい研究を進め、医薬品にまで育て上げるには、人工合成法の確立は必須だった。
 不破准教授は「この物質がこのまま薬になるのか、改良が必要なのか、なぜがんに効くのかなど詰める必要がある。臨床医学の専門家らと協力しながら、研究を進めていきたい」と語っている。