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新蔵礼子先生の論文が『ネイチャー・イミュノロジー』(電子版)に掲載

 本学バイオサイエンス学科の新蔵礼子教授は、抗体遺伝子に起こる体細胞突然変異が腸内細菌の制御と粘膜防御に重要であることを証明し、その研究成果が『Nature Immunology (電子版2011/01/23付)』に掲載されました。

【概要】
 クラススイッチと体細胞突然変異は異なる抗体遺伝子変異をもたらすにもかかわらず、両者とも酵素activation-induced cytidine deaminase (AID)が必須であり、体細胞突然変異だけを分離して解析することが不可能だったが、今回の研究では体細胞突然変異だけが特異的に障害されるAID変異体 (G23S)のノックインマウスを作製し、体細胞突然変異の腸管免疫における意義を明らかにした。
G23Sマウスでは正常量の腸管IgAが産生されるが、腸管IgAを産生することができないAIDノックアウトマウスと類似したパイエル板などの胚中心の過形成が観察された。この病態は抗生物質投与で改善することから、異常に増殖した腸内常在細菌が胚中心B細胞を過剰に刺激した結果と考えられた。つまりIgAがあるだけでは十分でなく、体細胞突然変異の蓄積により高親和性を獲得したIgAが腸内細菌叢の制御に重要であることがわかった。さらにG23Sマウスでは野生型マウスに比べ経口コレラ毒素に対する防御の低下が見られ、はじめて出会う病原体に対する防御においてもIgAに体細胞突然変異が起こっていることが重要であることが明らかになり、腸管粘膜面の第一線防御での体細胞突然変異の重要性がはじめて明確になった。
 今回の結果から、体細胞突然変異を起こしたIgA抗体の中でもとくに腸内細菌制御に有用なIgA抗体を経口投与することによって腸内細菌叢を制御し、腸内細菌の異常増殖が原因と思われる疾病の治療や予防の可能性が生まれた。

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2011年1月25日 朝日新聞より
細胞が突然変異 腸内細菌を制御
 多数の細菌がいる腸内では、免疫細胞で突然変異がひんぱんに起こることが細菌を制御するために重要な役割を果たしていると、長浜バイオ大の新蔵礼子教授や京都大などのグループが明らかにした。米医学誌ネイチャーイムノロジー電子版で発表した。
 免疫細胞では病原体をやっつける「抗体」がつくられる。その抗体を作る遺伝子で、「体細胞突然変異」と呼ばれる現象が起こる。グループは、体細胞突然変異が起こらないようにAID遺伝子を操作したマウスを作って調べた。
 その結果、このマウスでは腸内細菌が異常に増えること、コレラ毒素で死にやすくなることなどを見つけた。腸内細菌の制御には、抗体ができるだけでは不十分で、体細胞突然変異が不可欠という。
 「腸内細菌は増えすぎると困る。適切にバランスをとるため体細胞突然変異が必要だ」と京都大の本庶佑客員教授は話している。

2011年1月24日 日本経済新聞より
腸内細菌、抗体で制御 京大など 免疫の仕組み解明
 京都大学の本庶佑客員教授や長浜バイオ大学の新蔵礼子教授らは、腸内細菌を制御する免疫の仕組みを解明した。細菌の種類に合わせて抗体の形を変える細胞の突然変異が重要な役割をしていた。免疫がかかわる病気の治療法開発などに役立つ。米科学誌ネイチャー・イミュノロジー(電子版)に24日掲載される。
 抗体は細菌などの抗原に結合して体内を守る役割を持つ。「AID」という酵素の働きにより、抗原の種類に合わせて結合部の形を変えるため、体細胞が突然変異を起こす。研究チームはその仕組みを詳細に調べた。
 遺伝子操作でAIDを変異させて体細胞突然変異の起きないマウスを作製。初めての抗原への対応の変化を見るためにコレラ毒素を投与した。通常はすべて生存するのに、遺伝子操作したものは約6割しか生き残らなかった。AIDに変異があり体細胞突然変異が起きないと、腸内細菌の制御が不十分になり抗原への抵抗力も低かった。
 本庶客員教授は「(酵素の変異により)病気になる可能性がある」と指摘する。アレルギーや生活習慣病などの疾病にかかわる可能性があり、関係が分かれば予防法や治療法の開発に役立つ。

2011年1月24日 日刊工業新聞より
体細胞突然変異 腸内細菌制御に必要
 京都大学の本庶佑(たすく)客員教授、長浜バイオ大学の新蔵礼子教授、魏民・日本学術振興会元特別研究員らは一度感染した病原体を記憶する「免疫記憶」に不可欠な体細胞突然変異という新しい抗体をつくる仕組みが、腸管内の細菌の制御に重要なことをマウスの実験で確かめた。米科学誌ネイチャー・イミュノロジー電子版に24日発表する。
 体細胞突然変異は「クラススイッチ」という遺伝子組み換えとともに免疫記憶に不可欠。両者にはどちらもAIDと呼ばれる酵素が必須で、これまで体細胞突然変異だけを分離して解析することは難しかった。
 今回、2004年に発見したAID変異体を使い、クラススイッチは起こるが体細胞突然変異が起こらないマウスを作製。マウスの腸管を調べた結果、体細胞突然変異を経てできた抗体は腸内細菌が増えすぎないよう働きかけているが、体細胞突然変異を経ない抗体は腸内細菌を制御できないことを発見した。また体細胞突然変異が起こらないマウスは正常のマウスに比べて、口から飲ませたコレラ毒素に対する致死率が高かった。

2011年2月15日 京都新聞より
抗体の「体細胞突然変異」 腸内でも、やはり重要
 腸内環境を整えるのに、抗体が外敵(抗原)をとらえる部分の構造を変える「体細胞突然変異」が重要であることを、京都大医学研究科の本庶佑客員教授や長浜バイオ大の新蔵礼子教授たちのグループが突き止めた。抗体を使って腸内細菌をコントロールする方法の開発などに役立つ成果という。
 抗体は、体細胞突然変異と、攻撃力を高めるために抗体の種類を作り分ける「クラススイッチ」の両方が重要とされる。しかし、体細胞突然変異だけが起こらない症例は、人やマウスで見つかっていないため、単独での働きはよく分かっていなかった。
 新蔵教授たちは、体細胞突然変異だけが起こらないマウスを、特殊な酵素の遺伝子を導入して作製した。その結果、腸管では通常と同じ量の抗体(IgA)が作られていたが、腸内細菌の量が約10倍に増えていた。また、コレラ毒素でマウスが死にやすい傾向も見られた。
 腸管の抗体では、多くの種類の細菌を広く認識する必要があるため、「体細胞突然変異」は重要でないと考えられていた。新蔵教授は「腸でも、抗体は体細胞突然変異を経た上で重要な働きをしていることが分かった。抗体を服用することで腸内環境を整えられる可能性が示された」と話している。
 英科学誌「ネイチャー・イミュノロジー」でこのほど発表した。