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第110回長浜バイオ大学バイオセミナー

日 時: 2014年10月28日(火) 15時20分~16時20分
場 所: 命江館3F 中講義室1

テーマ: γ-グルタミルトランスペプチダーゼの反応機構依存型阻害剤 GGsTopTMの開発と応用
講 師:京都大学 化学研究所 生体触媒化学研究領域 教授
平竹 潤 先生
【講演内容】
グルタチオン(γ-Glu-Cys-Gly, GSH)は、活性酸素種やフリーラジカル、重金属や求電子性薬物など生体異物の解毒に中心的役割を果たす必須の生体成分で、その代謝に関わるγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)は重要な創薬ターゲットである。我々は、GGTの活性中心(Thr 残基)と特異的に反応し、共有結合を形成して酵素を不可逆的に阻害するホスホン酸ジエステル型の反応機構依存的阻害剤を開発した。一連の構造活性相関により、ヒトGGTの活性中心において基質GSHの基質認識に重要な残基の存在を明らかにし、この残基との相互作用をもとに強力な阻害剤GGsTopTMを完成させた。本化合物はヒトGGTに対して高い阻害活性を示し、従来のGGT阻害剤acivicinの120倍以上の活性がある。また、GGT以外の酵素を阻害しないため、毒性がなく安全で確実な実用的GGT阻害剤である。
驚いたことに、GGsTopTMは10 μMの低濃度で、ヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲンやエラスチンの産生を大きく亢進させる興味深い活性があり、細胞増殖促進効果や、紫外線による酸化的ダメージの軽減など、さまざまな生理活性が見いだされた。この効果は、細胞内GSHの一過性低下にともなう酸化ストレスが引き金となって、細胞自身が抗酸化ストレス応答を引き起こした結果と考えられる。 こうした有用な活性をもつGGsTopTMを、新しいコンセプトのアンチエイジング化粧品成分として実用化すべく研究開発を行い、2011年大学発ベンチャー(株)ナールスコーポレーションを設立、「ナールスゲン®」という登録商標で化粧品ビジネスを展開している。
GGTの反応機構をもとにした不可逆的な阻害剤の分子設計、その阻害の特性、安全性や有効性の評価から実用化まで、基礎から応用に至る一連の研究をご紹介する。

第110回バイオセミナーは河合 靖先生のホストにより、生物有機化学、酵素化学、有機合成化学がご専門の京都大学・化学研究所の平竹 潤教授にお越しいただきご講演頂きます。