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コンピュータバイオサイエンス学科 / 学科教員の最近の研究成果

「大学案内2014」紹介分

白井 剛先生
低分子化合物の構造計算方法を確立しツールを公開

栄養素などの低分子化合物は、タンパク質やDNAなどの高分子化合物と結合して、その働きを助けたり阻害したりします。病気の因子に結合してその働きを阻害する低分子の立体構造が分かれば、創薬に応用することが可能になります。

しかし、分子を構成する原子の組み合わせ数が膨大なため、中にはスーパーコンピュータを使っても、構造計算に10〜20年もかかる低分子化合物もあります。またドラッグのデザインには、結合の形を重ね合わせて比較することが必要ですが、この方法は確立していませんでした。

そこで白井先生の研究グループは、必ず正解が出る保障がないという多少の不正確さを我慢して、低分子化合物の立体構造を比較するための計算方法を確立してツールをWeb上に公開、この研究成果を「JMB Vol.424」(2012.10)で発表しました。

和田 健之介先生
大規模ゲノム情報を可視化するための並列計算システムの開発

大規模ゲノム情報の中に潜む複雑かつ美しい超多次元構造を、学習アルゴリズムと3DCGを用いて、私達に分かりやすい形で可視化するためのシステム開発を行っています。

池村淑道客員教授のグループと共同で、効率よく特徴を抽出するためのアルゴリズムの研究を行っていますが、対象とするデータのサイズが尋常でなく、1000次元以上のデータを100万件といった超ビッグデータを計算処理する必要があります。スーパーコンピュータの性能は飛躍的な進化を遂げていますが、非常に高価なために多くのユーザが利用する共同施設として運用されています。このため各ユーザが利用できるCPU数やメモリ数には厳しい制限が設けられているため、超大規模データを現実的な時間内で計算するためには様々な工夫が必要となります。

現在開発中のGPUを用いた超並列計算プログラムや振動子集団の同期現象を応用したアルゴリズムによって更なる研究の発展が期待されています。

創薬等支援のための技術基盤開発(文部科学省プロジェクトに参画)

白井剛教授が代表の本学コンピュータバイオサイエンス学科の研究チームは、文部科学省が2012年から5ヵ年計画で進めているプロジェクト「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」に参加し、「超分子モデリングパイプラインの構築」を担当して研究開発を進めています。

生き物の中では、タンパク質やDNAなどの生体分子の多くが「超分子複合体」と呼ばれる集合体をつくっており、それらが様々な働きを担っています。超分子複合体の複雑な立体構造や動きを予測し、その立体構造と病気との関わりを解明する新しい手法の開発は、難病を克服する創薬を大きく支援するものとなります。

塩生 真史先生 土方 敦司先生
超分子複合体の立体構造を予測する方法の開発

左:塩生 真史先生 右:土方 敦司先生

塩生先生と土方先生が進めている研究は、超分子複合体の形そのものを予測する新しい手法の開発です。
多くの超分子複合体は、どのような形をしているのかがまだ分かっていません。それは超分子複合体を実験手法で取り扱うことが難しいためです。そこで、コンピュータを使って、超分子複合体のパーツとなっている生体分子を組み上げることで、全体の形を予測する方法を開発することがこの研究の目的です。
同時に、創薬の研究開発に携わっている実験研究者に、予測した超分子複合体の立体構造情報を提供し、新しい医薬品開発につながる支援も行っています。

依田 隆夫先生 辻 敏之先生
超分子複合体から機能を予測するための手法の開発

左:辻 敏之先生 右:依田 隆夫先生

依田先生と辻先生が進めている研究は、超分子複合体の形の変化と生体内での機能との関わりを動的に捉える新しい手法の開発です。
超分子複合体が生体内でどのような機能を持つのかを予測するためには、超分子複合体の構造変化のメカニズムを明らかにすることがとても大切です。この目的のために、物理化学的性質に基づく分子シミュレーションを使った新しい手法の開発を進めています。
分子シミュレーションの結果と実験データとを照らし合わせることで、より正確な超分子複合体の形と動きを捉えることが可能となります。効率のよい創薬のための技術基盤の一翼を担うことをめざしています。

「大学案内2013」紹介分

池村 淑道先生、米澤 弘毅先生

新たに本学に着任した米澤先生は、コンピュータを用いて、ヒトで新たに流行を起こす可能性のあるインフルエンザウイルス株の予測や、ワクチンの製造に役立つ方法を開発する研究を進めています。これは、分離実験によりゲノム配列が解読されデータベースに多量に収録されているインフルエンザウイルスの遺伝子配列データについて、地域や年代によるデータ量のバラつきを解消し、本来の自然界でのインフルエンザウイルスのゲノム配列変化の実態を明らかにする研究です。

本学では、コンピュータバイオサイエンス学科の池村研究室と和田研究室、ならびにバイオサイエンス学科の伊藤研究室が共同で、インフルエンザウイルスのゲノム配列の情報学的研究を行って来ましたが、新たに米澤先生が参加されたことで、特徴のある研究の更なる発展が期待できます。

大島 一彦先生

生物のゲノムには、染色体上を移動することができる「動く遺伝子」=トランスポゾンがたくさん含まれています。トランスポゾンは自分のコピーを作り、ゲノムの中で増加していきます。哺乳類のトランスポゾンの一種であるL1因子は、自分が増えるだけでなく、普通の遺伝子も増やし、遺伝子の進化に貢献していることが知られています。

最近の研究で、近ごろ続々と解読されている植物のゲノムを分析したところ、種子植物にもこのL1と似た性質のトランスポゾンがあることを発見し、しかも、哺乳類と植物という遠縁の生物で別々に、同じ性質が進化した可能性が高まりました。哺乳類であるコウモリが、鳥のように飛べるのと似ています。近々論文として発表され、将来的には植物の品種改良にも応用できるものと期待されています。

依田 隆夫先生

人間に組み立てられる機械やロボットとは違い、生物は非常に多くの種類の遺伝子の働きによって自らの体を構築していきます。タンパク質は最少でも1000個ほどの原子からなる線状の分子ですが、実はこれも、自分で自らの形を構築(折り畳まれる)して、機能するようになります。このことは、50年ほど前に発見されました。

この折り畳まれる現象=プロテインフォールディングの原理やプロセスなどを、拡張アンサンブル法という方法を用いてタンパク質の折れ畳み構造をコンピュータ上でシミュレートしながら、研究しています。

今後、スーパーコンピュータ「京」などの高速な計算機資源の使用が可能となり、正確に分らなかったタンパク質の構造についても、シミュレーションで明らかにされるものと期待されています。

塩生 真史先生

タンパク質がどのようにして働くかを知るには、タンパク質の形(立体構造)が重要な情報です。しかし、実験では立体構造が決められないものも多く存在します。そこで、コンピュータを用いて立体構造を予測するための研究を進めています。

最近では、複数のビーズをヒモでつなげたような形をしているマルチドメインタンパク質について既知の構造の特徴解析を行いました。さらにその結果を用いてマルチドメインタンパク質の立体構造予測法を開発し、その研究論文が情報処理学会のバイオインフォマティクス論文誌(2012年4月発行)に掲載されました。

創薬の対象になるタンパク質にはマルチドメインであって実験的に構造を決めることが難しいものも多くあります。それらの構造が予測できることで、より効率的にドラッグデザインを行えることが期待されています。

「大学案内2012」紹介分

白井 剛先生

現在のアナゴにある、形も機能も違うが同じ祖先をもつ、2つの抗体のような働きをするたんぱく質の構造を解析し、進化の過程で失われたたんぱく質の立体構造を再現することに、世界で初めて成功しました。この研究論文は、構造専門科学誌『Structure』に掲載されました。

これは現在のたんぱく質の構造を基に、どの原子がどのようにつながっていたのかという、失われたたんぱく質の立体構造を計算で求め、それを実験で再現し甦らせたものです。まだアナゴの一つの分子を再現しただけですが、この手法を使えば、失われた生物を化石ではなく丸々再現することも夢ではなくなり、人間が改変する技術であるたんぱく質工学の発展に大きく寄与する研究成果といえます。

永田 宏先生

医師不足が深刻になる中で、大学の医学部の定員が大幅に増やされましたが、それにより将来的に医師の需給がどうなるのかをコンピュータでシミュレーション、その結果が医学系専門誌に掲載される予定です。この結果の考察から、あまりにも細分化している医師の専門分野やわかりにくい医療費など、現在の医療制度に関わる問題点が浮き彫りになっています。

こうした医療制度の抜本的な解決策として期待されているのが、全国版電子カルテ「EHR」の開発です。これは、クラウドコンピューティングでネット上に電子カルテを構築するもので、厚生労働省の研究班の一員として、その実現に向けた研究を進めています。

池村 淑道・和田 健之介先生

池村先生を指導教員に、ゲノム解析のソフトウエア開発の和田健之介先生、ウイルス学の伊藤正恵先生、ゲノム配列解析が専門の阿部貴志先生の4人の共同指導で、大学院生・岩崎裕貴さんを筆頭著者とする、インフルエンザウイルスのゲノム配列変化の予測についての研究論文が、ゲノム関係の国際誌『DNAResearch, Vol.18, 125-136(2011)』に掲載されました。

独自に開発した情報解析手法を用いたゲノム解析により、季節性ヒトインフルエンザウイルスの従来株と新型インフルエンザ株、鳥や豚インフルエンザウイルス株などの違いを比較し、新型インフルエンザ株が従来型ヒト季節性株に近づくように変化している規則性とその要因を発見したもので、未来予測にも役立ちます。ソフトの設計仕様の限界を遙かに超えた大規模計算をするので、「私も非常に刺激を受けます」と和田先生は話しています。