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第125回バイオセミナーのご案内

第125回バイオセミナーは、白井 剛先生のご紹介で、京都大学iPS細胞研究所 未来生命科学開拓部門の渡辺 亮先生にお話しいただけることになりました。渡辺先生の研究グループでは、ゲノムやエピゲノムの解析を行い、真の臨床応用が可能なiPS細胞を厳密に評価する方法を開発しています。

関連他分野のお話を聞ける良い機会ですので、教員、大学院生はもちろん、学部学生も多数ご参加ください。

日 時 2015年12月10日(木) 15:10~16:30

会 場 命江館3F 中講義室①

演 者 渡辺 亮先生(京都大学 iPS細胞研究所 未来生命科学開拓部門)

演 題 細胞運命を明らかにするシングルセル遺伝子発現解析

細胞分化は一個の受精卵から数百種類の細胞を生み出す生命現象である。臓器の形成や形態などのボディプランに示されるように、ヒトの発生過程における分 化は極めて厳密に制御されている。分化を制御する細胞運命決定はエピゲノム制御が深く関与していると言われているが、その詳細は明らかになっていない。本研究では、体細胞初期化過程及び細胞分化における連続的な遺伝子発現ネットワークの遷移をシングルセルRNA-seqによって観察し、この分化を制御するメカニズムの解明を試みた。まず、iPS細胞から心筋細胞への分化誘導過程における複数のタイムポイントで取得した単一細胞について、遺伝子発現プロファイルを取得した。情報解析によって、各細胞の分化の進行度を規定した。我々の分化遷移状態で発現が観察されたマーカー遺伝子が、既報にあるマウスの神経及び心臓発生に関与する遺伝子の発現の時系列と一致していたことより、in vivoの発生過程を模倣していることが示された。そして、分化の遷移過程で一過的に高い発現を示す転写因子が、同一の転写制御ネットワークを形成しているタイミングでは発現量の揺らぎが失われていたことより、このタイミングでは細胞分化を不可逆にしていることが考えられた。上記の結果より、細胞分化の制御は、遺伝子のコンテンツのみならず、その発現の揺らぎが関与していることが示唆された。同時に、ヒストン状態を計測するAssay for Transposase Accessible Chromatin using sequencing (ATAC-seq)によって、転写のオーケストレーションを制御する心筋分化のキー因子を同定した。さらに、シングルセル遺伝子発現解析のデータよりアリル特異的な発現を計測するアルゴリズムを開発した。シングルアリルレベルで転写制御を評価することで、転写のオン・オフを1本のDNAレベルで観察が可能になり、デジタル化することに成功した。本講演ではシングルセル解析が現実化した中で替わりつつある生物学研究の方法論についてもディスカッションしたい。