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第80回長浜バイオ大学バイオセミナー

日 時:2012年10月4日(木)16時30分〜18時00分

場 所:命江館3F 中講義室3

テーマ:哺乳類の系統と進化:危機から生まれた哺乳類

講 師:東京工業大学大学院生命理工学研究科

             岡田 典弘 教授

【講演内容】
  レト ロポゾンとはcopy&pasteで増幅する転移因子である。我々はこの中の短い散在性の反復配列SINEを用いて系統関係を決定する方法、所謂SINE法を確立した。我々はこの方法を用いてクジラとカバが近縁であることを確立したが、これは分子進化学のどの教科書にも記載されている有名な発見である。同様にこの方法を用いて、我々は哺乳動物の懸案であった幾つもの系統の問題を解決して来た。北方獣類、アフリカ獣類、貧歯類という有胎盤哺乳類の三つの大きな系統が同時に分岐したということもその一つである。この研究では地質学者の丸山茂徳博士と協同で新しい大陸分断のシナリオを提供している。 さらに新しく発見されたAmnSINE1がCNEの一部を構成するという発見から、SINEがエンハンサー機能を哺乳動物の共通祖先で獲得した種々の例を明らかにした。例えば、あるSINE座位はfgf8のエンハンサーであり、視床の体性感覚野であるバレロイ ドのパターニングに関与するということが示された。別のSINE座位はwint5aのエンハンサーであり、二次口蓋の形成に関与しているということが示されている。このことは、元々機能を持たないSINEが2億5千万年前のP-Tの境界の大絶滅後に危機に際して機能を持ったことを示唆する。この大絶滅の前後から大気の酸素濃度が低下し、その超酸素欠乏状態は二千万年間の持続する。一方、爬虫類と哺乳類は3億1千万年前に分岐したが、かろうじて生き延びた哺乳類や爬虫類の祖先はこの厳しい環境を生き延びる為の適応を強いられた。特に我々哺乳類の祖先は、低酸素状態により良く適応した爬虫類の祖先に昼の世界を奪われたため、夜行性として生きることに対する適応をも強いられたと考えられる。低酸素濃度や夜行性に適応する必要から、哺乳動物の共通祖先では多くのレトロポゾンが新たに機能を持ったと考えられる。