×

2024年度長浜バイオ大学入学式 学長式辞

湖北の長浜にも、もうすぐ桜の便りが届きます。野山の芽吹きにも春を感じる季節となりました。本日、ご来賓として、長浜市長、浅見宣義様、長浜商工会議所会頭、大塚敬一郎様のご臨席を賜り、2024年度長浜バイオ大学入学式を執り行うことができ、大変嬉しく思います。2019年末に出現した新型のコロナウイルスによる感染症は、世界的なパンデミックを引き起こし、国内でも緊急事態宣言が繰り返し発出される中、入学式も制限を受けてきました。昨年5月に、ようやく新型コロナウイルス感染症が感染症法の2類から季節性インフルエンザと同じ5類へ移行となり、今年の入学式は、2019年以来初めて、いつも通り、多くのご家族・ご関係の皆様にもご出席いただいております。

本日、バイオサイエンス学部へ、22期生として、フロンティアバイオサイエンス学科62名、フロンティアバイオサイエンス学科臨床検査学コース22名、アニマルバイオサイエンス学科55名、バイオデータサイエンス学科35名、の174名が入学され、また、大学院バイオサイエンス研究科に、博士課程前期課程18期生として38名、博士課程後期課程18期生として1名が進学されました。皆様、ご入学・ご進学おめでとうございます。ご家族・ご関係の皆様にもお祝い申し上げます。長浜バイオ大学教職員、在校生一同、心より歓迎いたします。

今、バイオサイエンス・バイオテクノロジーは、データサイエンスと人工知能(AI)の急速な進歩と組み合わさり、その可能性を大きく広げようとしています。データサイエンスとAIは、大量の生命科学データを効率的に解析し、パターンや関連性を発見するための強力なツールとなり、これらの技術の活用により、すべてのバイオサイエンス分野で、革新的な進展が期待されます。長浜バイオ大学では、このような時代を担うバイオサイエンティストの育成を目指し、今年度、これまでのメディカルバイオサイエンス学科を発展させ、実験を重視する姿勢を維持しつつ、加えて科学的にデータを取り扱い、AIを活用する力を身に付けるプログラムを備えたバイオデータサイエンス学科をスタートさせました。バイオサイエンス学部は、このプログラムで、文部科学省が推進する数理・データサイエンスAI教育プログラム認定制度の応用基礎レベルの認定を受ける予定です。カリキュラムは、バイオデータサイエンス学科だけでなく、フロンティアバイオサイエンス学科、アニマルバイオサイエンス学科の皆様も、プログラムに参加できるようになっています。ChatGPTのような生成AIは、数年前には私たちの身近にはありませんでした。ところが、現在では、バイオサイエンス・テクノロジー分野でもこれを使いこなすことが必須となりつつあります。より多くの新入生の皆様が、より高度なデータサイエンス・AIを活用するための基礎応用力を修得して下さるよう、願っております。

昨年、2023年のノーベル医学生理学賞は、「新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチン開発への多大な貢献」をされたカタリン・カリコ博士とドリュー・ワイスマン博士に贈られました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、現代の人類の健康に対する最大の脅威のひとつとなりましたが、お二人の研究成果を基にしたワクチンは、多くの命を救い、重症化を防ぎ、社会が日常をとり戻すことを可能にしました。ここにおられる皆様も多くの方が接種を受けられたと思います。ワクチンの歴史は古く、1798年にイギリスの開業医であったエドワード・ジェンナーが天然痘に対し、牛痘(牛がかかる天然痘)を用いた予防法を報告したことが始まりとされています。約100年後、ルイ・パスツールは、ウイルスを物理学的、化学的に殺した不活化ワクチンを開発し、1900年代に入ると、小児麻痺や麻疹、おたふく風邪、風疹、水痘などで、人工的に毒力を弱めた弱毒生ワクチンが実用化されました。1900年代後半には、遺伝子工学の飛躍的な発展により、バイオテクノロジーの技術を使ってワクチンが造られるようになります。遺伝子を切ったり繋げたりする組み換えDNAの技術を用いて人工的に造られたウイルスのタンパク質を利用した、B型肝炎、子宮頸がん、インフルエンザのワクチンなどです。そして新型コロナウイルスに対するmRNAワクチン。この全く新しいワクチンはバイオサイエンスの結晶です。遺伝子のmRNAが、なぜワクチンとして働くのでしょうか。mRNAの強い副作用をどのようにして抑制するのでしょうか。また、手に触れただけで壊れてしまうmRNAの分解をどのようにして防ぐのでしょうか。さらに、適切な免疫力が得られるmRNAをどのようにして設計するのでしょうか。これら、mRNA技術は難しそうに聞こえますが、その理論の基礎から応用までの講義、関連する技術の実習は、全て長浜バイオ大学のカリキュラムに組み入れております。バイオサイエンスは、ワクチンのような医療分野だけでなく、食糧問題、環境保全、生物多様性の維持、エネルギーの確保など、現在、世界が抱える課題の解決になくてはならない技術を提供し、実際に社会で役に立ち、ダイナミックに進歩しています。そして進歩のスピードはますます加速しています。mRNAワクチンも、すでにその先、mRNA自身が複製して増えるレプリコンmRNAワクチンが開発され、国内でも承認されています。長浜バイオ大学で積極的に学び、大学院で自ら考え研究することを通して、バイオサイエンスを体感して下さい。その学びを礎として、これからのバイオサイエンスを発展させ、社会で活躍するのは、今日、入学・進学された皆様です。

幕末動乱の時代に「松下村塾」を開き、のちの明治維新で活躍する多くの若者に思想的影響を与えた吉田松陰が唱えた言葉に、「夢なき者に成功なし」があります。夢のない人は、本当に成功しないのでしょうか?逆に、「夢があれば、成功する」のでしょうか?夢があっても、何も行動しなければその夢は叶えられませんから、「夢があれば、成功する」とは限りません。しかし、「成功する人には夢がある」のは確かではないでしょうか。夢を叶えるために、何をすべきか考え、目標を決めて計画を立て、計画を実行し、目標の達成を目指して、少しでも理想に近づこうと努力する。その先に成功があります。全ての成功は「夢」を持つことから始まるのではないかと思います。今日、入学、進学された皆様は、これまで制約を受けてきた、中学や高校での生活、大学での生活の分も併せて、思い切り学び、実験をし、友人を作り、語らい、サークル活動やアルバイトを経験し、その中で、自分の夢を見つけて下さい。そして、時間がかかっても、いつかその夢を実現させましょう。夢に向かって頑張る皆様を、長浜バイオ大学は全力で応援します。そのことをお約束して、私の式辞と致します。

本日は、ご入学、ご進学、おめでとうございます。

2024年4月1日 長浜バイオ大学 学長 伊藤 正惠