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第95回長浜バイオ大学バイオセミナー

日 時:2013年9月18日(水) 15時00分〜16時15分
場 所:命北館4F 中講義室6
テーマ:オートファジーと細菌の栄養摂取を結びつける新規の細菌分子
講 師:オハイオ州立大学獣医学部 力久 泰子 教授

【講演内容】
 「ヒト顆粒球性アナプラズマ症」と「ヒト単球性エーリキア症」はマダニによって媒介される人獣共通の感染症であり、重篤な新興感染症の1つとして対応が急がれている。各々の病原菌である Anaplasma phagocytophilum (Anaplasma) とEhrlichia chaffeensis (Ehrlichia)は、リケッチアの仲間であり、白血球に感染する。これらの細菌はアミノ酸の合成と中間代謝に関わる遺伝子の多くを欠くため、増殖のために宿主の栄養を利用する。両細菌は、宿主の細胞質に膜に囲まれた封入体 を形成し、その中で増殖するが、Anaplasma のそれはオートファゴソームに、 Ehrlichia のそれは初期エンドソームに似ている。これらの細菌はtype IV分泌装置を持ち、 Anaplasma はAts-1、Ehrlichia はECH0825 というエフェクタータンパク質を宿主の細胞質に分泌する。細胞質に分泌されたAts-1とECH0825 の一部は、ミトコンドリアに移行して宿主細胞のアポトーシスを防ぐ。エフェクターの一部は封入体膜に戻り、 Ats-1の場合は、オートファジー必須タンパク質のべクリン1と結合して、 ECH0825 ではRab5 とべクリン1と結合して宿主細胞にオートファジーを誘導する。オートファジーで取り込まれた内容物は封入体内に輸送され、封入体内の細菌に栄養が供給される。オートファジーが菌の増殖に重要なことは、オートファジーを誘導させると感染が悪化し、オートファジーを阻害すると増殖が抑えられることから示された。このように、 Anaplasma と Ehrlichia は、宿主細胞を生きた状態に保ちながら、宿主のオートファジー経路を乗っ取り、宿主由来の栄養を獲得して、自身への栄養供給に用いるという巧妙な増殖戦略を持つことが明らかになった。